あるじのひとりごと

石割山にて

 石割山の奥社は頂上から15分程、平野の麓からは4km程にある。朱に染まってゆく富士を拝んだ後、ひと息入れるのによい場所だ。見上げてしまう大岩の御神体を守るように囲む木々が朝露に濡れている。
 御神体からしみ出る水は昔より霊水として目や皮膚の病に効くとされている。いつもこの季節になると息子とお参りがてら霊水で顔を洗いに来ていたのだが、その息子も去年より勉学のため東京へ行き、ひとりでの参詣だ。
 わたしも息子と同じく東京の学校を卒業後、暫くそのまま都心で働いていたが、実家を手伝う為、この地に帰り三十年余がたった。年には勝てないようで境内の隅にある石に座り、汗を拭きつつ昨日の演奏を思い返した。合宿練習に来ていた某大学オーケストラの最終日の演奏だったのだが、素晴らしいのひとことに尽きた。
 合宿初日の演奏に比べてこんなに楽器ひとつひとつの音が明瞭で息があうものだろうか。きっと、集団のパワーが最大限に発揮されるようにそれぞれの演奏者が、他の演奏者に心配りをしつつ心を込めて演奏をしたからに違いない。他の演奏者に心配りということが大事なことで、合宿中、同じ釜の飯を喰い同じ場所で寝て練習を重ねることでチームワークが醸成されるのだ。
 こんなチームをみるととても楽しい。これからもこんな心が醸成される環境を提供できる宿として努力を続けていきたいと思う。
 木々の合間からの光が明るくなってゆくのを感じながら境内をあとにした。